たわむれに、



かさついた唇を重ねて、離して、また重ねて。今度は少し長く重ねて、互いの唇を湿らせるように、じっくりと食みあって。触れ合う舌先が熱病患者のように熱くて、閉じた瞼の裏が眩暈を起こしそうになる。彼の舌の中央にあるピアスに触れる度、その無機質さに体が反応する。この人の舌は薄くて、とても器用だ。


気持ち良さとじれったさが同時に湧き上がるようなそのキスは、目の前の男が誰であるかということを確かに私に分からせた。特別に濃厚というわけではないのに、こんなにも印象に残るキスをする男を、私はこの人しか知らない。


唇を離すと、まるで射るような目つきの平子隊長がそこにはいた。それだけで人を殺せそうな程、鋭く研がれた視線。私は思わず息を呑むと同時に、体の奥がじわりと疼くのを感じた。


「…平子隊長って、こんなキスもするんですね」
「…どーいう意味や、それ」
「この間セックスした時のキスは、何だか小鳥みたいだったから」


私が悪戯っぽく言うと、平子隊長はあからさまに眉を顰めた。その表情はもういつもの平子隊長。さっき唇を離した瞬間に見せたあの顔は何だったのだろう。射抜かれるようなあの目は。…ああ、あれは平子隊長の、男の目だったのか。


「隊長のそのピアス、すっごく、イイです」
「…そらおおきに」


平子隊長が少し困ったように頭を掻くのがおかしくて、私は肩を竦めて笑った。


「小鳥のキスで終わりだったら、思ってた通りの人だと思ったんですけどねぇ」
「何やそれ。どないな男やと思とってん」
「やるだけやったらポイ」


私の言葉に、平子隊長は呆れたように口をへの字にした。仮にも上司なのに平気でそんなことが言えてしまうのは、この上司の性質のせいだ。しかしそれよりも、今ここにいるのが上司ではなくただの男だという紛れもない事実が、私にそうさせた。


「平子隊長、もう一度キス、しましょう」
「…の言う通り、やるだけやったらポイ、っちゅう男かもしれへんで?」
「それでもいいです。何だか、癖になっちゃったみたい、だから」


私はそう言って自分から唇を重ねた。触れる舌のピアスが酷く気持ちいい。この人を手放したくないなぁ。瞼を閉じて考える。こういう気持ちが恋になるんだということを、私も、そして平子隊長も、きっと知っている。