光は君だった
晴天でも薄暗い林の中を暫く進むと、ぽつんと開けた場所がある。その場所にはなぜか樹が一本もなく、林の中でそこだけが、神々しいまでに明るい。そして日差しの当たる地面のところどころには、丸く土が盛ってある。何年か振りに目にしたその光景に、俺はひっそりと目を細めた。「・・・・・・きれい」 思わず口をついて出た、という感じでは言った。 「ここなの?銀ちゃん」 「・・・おー」 俺は隣に立つをちらりと見下ろし、そのまま視線を前方へ移した。明るい日差しに照らされたその空間。土の色が少し湿っているように見えるのは、今朝方に降った雨の所為だろう。 あちこちにある盛り土には、きちんと意味がある。ただいびつに土を盛っただけで大きさはまちまちだが、それらは全て数年前に俺が拵えた、仲間達の墓だった。骨の見つかった者はその骨を、それすら見つけられなかった者の分は、そいつが使っていた武器や私物を、骨の代わりに埋めた。延々と続きそうなその作業を、俺はあの時、一人で続けた。 しかしそうして自分で作った墓地に、俺はずっと足を運べずにいた。多くのものを失ったあの時代を振り返ることが、どうしても出来なかったのだ。それなのに今、俺はここにいる。という小さな女を連れて。 ふと気付くと、隣にいた筈のが、いつの間にか墓地の中心まで足を進めていた。そのまま軽い足取りでそこを一周すると、1つの盛り土の前にしゃがみ込む。 「銀ちゃん、どこが誰のお墓か覚えてる?」 立ち尽くす俺に、は朗らかな声で問いかけてきた。俺は顎に手をやり緩慢に首を傾げる。その動作が答えだと悟ったのだろう、は優しく目を細めて笑い、「そっか」と言った。 ざり、と足元の砂が鳴る。その砂を力いっぱい踏み締めて一歩前へ進むと、どうしようもなく、昔の記憶が迫ってきた。失ったもの。奪ったもの。傷つけられたもの。壊したもの。そのどれもが俺を責めたてる。ここに眠る仲間達は、あの世で俺を恨んでいるだろうか。 なんとかの傍まで行くと、俺は誘われるようにそこにしゃがんだ。誰のものかも知れない墓。その前で俺は黙りこくっていたが、は両手の平を顔の前で合わせると、そっと目を伏せた。長い睫毛の影が落とされるのを、俺は横目で見ていた。 は何かを祈るように長いこと黙っていた。そしてそのうちゆっくりと目を開けると、今度は墓でなく俺の方を見た。不意に絡まった視線に、俺は口元を緩ませる。がとても優しく微笑んでいたから、ついつられてしまったのだ。 「・・・他人のだってのに、丁寧な墓参りだなァ」 「うん、銀ちゃんのこと、お願いしてたから」 俺は揶揄するように言ったのに、返ってきたの声はひどく落ち着いていた。 「今度は銀ちゃんを守ってあげてね、って、お願いしてたから」 息が止まるかと思った。は丸腰の筈なのに、まさかどこかに小刀を隠していたのか、と思うほど、まるで胸を刺されたように苦しくなった。 俺はあいつらを守れなかったんだ。 だからあいつらは、ここに眠っているんだ。 俺はあいつらに、守ってもらう資格などないんだ。 そう言ってやろうとするのに、言葉にならない。らしくもなく目を瞠ったまま、動けない。そして、もう随分前に封印した筈の俺の涙腺が、ゆるゆると活動を始めようとする。はそんな俺を見て、また優しく微笑んだかと思うと、俺の前髪に手を伸ばしてくしゃくしゃと掻き混ぜた。そうして俺が非難の声を上げるより先に、たった一言、「泣いてもいいよ」と言ったのだった。 |